ILLUSTRATION[さくひん]
2022年賀状『6つ子の舞踏会』

今夜の舞踏会の主役はトラ山伯爵だ。大陸と大きな商談がまとまったらしい。婚約者の麗華お嬢さまもたいへん嬉しそうにはしゃいでいる。
ウェイターに粉した6つ子は先週の失敗を繰り返さぬよう、今度は大広間の端を一列になって進むことにした。
ゆっくり、ゆっくりと。
もう大叔母さまに大目玉をくらうのはこりごりだ。
ゆっくり、一歩ずつ。
その時。トラ山伯爵が大きくターンをし、自慢の大尻尾が6つ子の前をフワッと遮った。
あ、あぶないッ
あわや大惨事になるところだった。飲み物は無事だ。カタカタ。
大尻尾はゆらーり、揺れている。トラ山伯爵のチークと共に。
麗華お嬢さまの眼がゴメンナサイねと、言っていた。
この人ったら、こうなってしまうと、何も眼に入らなくなるのよ。
もう。ジャマだなぁ。
6つ子は踏切に並ぶように、大尻尾に行く手を阻まれている。それも一列で。
カンカンカン。
列車がやって、、くるはずもなく、トラ山伯爵とお嬢さまのダンスが一通りおしまいになるまで、じっと、立ち尽くしたまま、6つ子は待ち続けるしかないのだった。
一列で。
〜待つわこの躯が朽ちても心はここにあり続けるわ あなたが愛した人は薄紫色の小猫に姿を変えて大海原に旅立っていった 見果てぬ夢とともに〜
音楽は続く。舞踏会も。
夜はふけてゆく。



2022-02-11 | Posted in ILLUSTRATION[さくひん] | No Comments »
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