ILLUSTRATION[さくひん]

2020年賀状『ねずみ娘と食卓と黄色いチーズ』

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ねずみ娘は様子をうかがっていた。ついに、今晩の食卓にあの黄色いチーズが出たのだ。

前にこのチーズにお目にかかったのはもう3か月以上前になる。そのときは人間のおとうさんに最後のひとくちを持っていかれてしまい、涙をのんだ。

まだ食べたことの無いあの黄色いチーズが、どうしてこうも気になるのか。はっきり言って、わからない。たくさんの穴があいているからかもしれない。たくさんの穴があいていて、それに、黄色いから。他に理由は無い。あの穴にはなにかしら秘密があって、きっと美味しいはず。だいたい、穴があいていたら手をつっこみたくなるものだが、穴がたくさんあいていたら…中にはきっと秘密がある。

「今夜を逃したら、次はいつになるかわからないわ。…今夜はあの黄色いチーズをぜったいに手に入れてみせる」

ねずみ娘はそうつぶやくと、寝床ですでに気持ちよさそうに寝息を立てている弟ねずみの掛け布を、そっとなおしてやった。

人間のおとうさんに最後のひとくちを目の前で食べられてしまった前回の失敗をかえりみて、今夜は食卓にごちそうがならべられたタイミングをねらうことにした。人間のおかあさんがテーブルの上に次々にごちそうを並べていき、ナイフやスプーンをそれぞれの位置に並べ、家族のみんなが席に着くとき、少しのあいだ台所は混沌となって、テーブルの上に隙が生まれる。その一瞬をねらおうというのだ。

失敗したら、たいへんなことになるかもしれない。弟ねずみだって、無事でいられるかどうか。

だれだって、今から夕食のテーブルにつこうというときに、ねずみが食卓の上を走っていたら驚いて、そして怒るだろう。たとえそれが、とってもキュートなねずみ娘だったとしても!

チャンスは一瞬、失敗したらすべてが終わるかもしれない。ねずみ娘は左右を見渡し、予想外の家族(おじいちゃんやおばあちゃんが不意に現れることがあるのだ!)と鉢合わせないことを確かめると、ハッ、と短く息を吐き、ひときわ輝く黄色いチーズを目がけてテーブルの上のごちそうのなかへ一目散に駆け出していった。

2020年、ねずみ年。なぜだか今年の干支はへび年だと思っていて、もう少しでへびのイラストで年賀状を描くところであった。あぶないあぶない。チューいしなければ。

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2020-11-09 | Posted in ILLUSTRATION[さくひん]No Comments » 
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